世界的石油危機と排気ガス規制

  '68年に登場したT500でいち早く高性能ビッグバイク時代を切り開いたスズキは、続く'71年のGT750で究極とも言える2サイクルマシンを完成させた。その後もGTシリーズは各排気量に波及し成功を収め、順風満帆にラインナップが構築されていく。
 しかし、全世界的モータリゼーションの拡大は、排気ガスによる大気汚染を加速させ、'70年にはアメリカで「マスキー法」が成立する。これは、CO(一酸化炭素)とHC(炭化水素)の値を'75年型車から'70年度規制基準の10分の1にする厳しい排気ガス規制法であった。
 また、'71年に発せられたニクソン米大統領の緊急経済政策の後、'73年に国内で相次いだ石油コンビナート事故や第4次中東戦争の勃発が引き金となり、日本に未曾有の「石油危機」を起こした。インフレが進み、省エネルギーの声が高まっていったのである。
 そのような時代背景の中、排気ガス規制と燃費の両面で2サイクルエンジンは窮地に立たされるのであった。

全社的支援体制が取られた4サイクルマシン・GSの開発

 2サイクルエンジンは小型軽量で高出力を出しやすいが、燃費や排気煙という点で4サイクルに及ばない。'78年から施行される排気ガス規制と社会的な背景が、市場のニーズを4サイクル車へと変えた。  '74年1月、スズキは二輪4サイクルエンジンの開発を決定。中野広之、藤井康暢を中心にプロジェクトがスタートし、品質保証部、工機部が積極的に参加する全社をあげての支援体制が取られた。  スズキでは'54年のコレダCOで4サイクルエンジンを経験しているものの、最良の製品を目指し、初心に帰って開発に取り組む。まず、先行していた他車を入念に調査し、基本骨子を直打式2バルブツインカム、排気量を2気筒=400cc・4気筒=750ccとし、シリンダー径を60φで統一することで生産ラインの効率化も図ることに置いた。  さらに、高い信頼性を求め、2サイクル時の実走耐久テスト1万kmを2万kmに、また、連続高速テストも繰り返され、徹底した品質の向上が行われた。こうして生まれたスズキ初の本格DOHCエンジンは、絶大な信頼性と、400ccで36ps、750ccで68psという1リットルあたり90ps強という高性能を獲得したのであった。  また、400cc=185kg、750cc=238kgという軽量な車体は軽快なハンドリングをもたらし、異音対策を徹底して行ったエンジンからは、4サイクルマルチシリンダー独自の美しいエキゾーストサウンドを発した。'76年に発売された両車は、瞬く間に人気を博し、スズキの4サイクル技術を世に知らしめた。

     
   GS750 エンジンカット図         1976年 GS400               1976年 GS750              1978年 GS750E 


華々しい活躍を見せたヨシムラ・GSレーサー

                         
                           鈴鹿8耐優勝のGS1000R

 GSのレースデビューは早く、'77年9月のラグナセカのスーパーバイクレースでヨシムラのGS750改造車が勝利を挙げている。
 圧巻は、'78年の第1回鈴鹿8時間耐久。当時耐久レースで無敵の強さを誇っていたホンダのRCB('76年デビュー・DOHCフォアのレーサー)をはじめ、並み居るワークスを押さえてヨシムラ・スズキのGS1000が優勝したのだ。AMAレギュレーションのままのアップハンドルにハーフカウルを付けた未完成ともいえる状態での偉業であった。ライダーは、ウエス・クーリー&マイク・ボールドウイン。
 トータルバランスに秀でたGSは、ヨシムラのファインチューニングに対応し、レーサーとしての戦闘力を短期間に飛躍させた。デイトナでは'78年〜'81年まで4年連続優勝。'80年の鈴鹿8耐もGS1000Rで勝利した。
 スズキとヨシムラのパートナーシップはこのGSとの出会いから現在まで連綿と続いている。

名実ともにスーパーバイクの座についたGS1000

 GS400、750の開発で4サイクルエンジンの技術を確固たるものにし、市場でも成功を見たスズキは、GSを2輪ラインナップの中核とし、各排気量への派生を図る。
 '77年に、日本人の体格と使用用途にマッチした秀作GS550が登場。DOHCフォアをわずか195kgの車体にまとめた。
 また、'78年にキャストホイールが国内認可されると、GSもいち早く採用し、GS400E、GS750E、GS550Eが登場する。
 一方、カワサキZ1に対抗する世界最速のバイクを目指したのはGS1000だ。エンジンは997ccとされ、87psの最高出力を誇った。ブレーキも強化されトリプルディスク。サスもフロントにエア加圧式、リヤにダンパー・バネ調整式の高性能版を与えた。乾燥重量も252kgにまとめて良好なハンドリングも維持した。'78年発売の輸出モデル。
 翌'79年には、スーパーバイク使用のGS1000Sが登場する。エンジンは90psにパワーアップされ、ハンドルマウントの特徴的なカウル、鮮烈な青/白のカラーリングがプレミアム性を主張した。ウエス・クーリーレプリカと呼ばれたこのマシンは、レースでの華々しい活躍と同時に、国内外でスーパーバイクの称号を手に入れたのであった。
 ツアラーモデルとして登場したのがシャフトドライブ、アップハンドル採用のGS850G。'79年に登場し、国内はGS750Gを用意。
 スズキの4サイクル技術の高さを実証し、一大ラインナップを築いたGSシリーズは、世界的ベストセラーとなり、'85年のGS1100Gまで受け継がれるロングディスタンスモデルとなったのである。

    
    1978年 GS1000               1979年 GS1000S            1978年 GS550E             1980年 GS750G 

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