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究極を実現した妥協無き開発

 1998年9月、ドイツ・ミュンヘンで開催された国際オートバイ見本市「インターモト98」において、既存のスポーツモデルとは一線を画すマシンがデビューした。GSX1300R“ハヤブサ”である。

 最高出力175ps、最大トルク14.1kg-m、乾燥重量215kgというスペックは、驚異的なパフォーマンスを予感させ、世界中のライダーの注目を集めた。

 小型の猛禽類である隼は、時速300km/h以上の速度で飛ぶことができる最速の鳥であり、食物連鎖の頂点に位置している。この名称を与えられたハヤブサは、“究極のスポーツバイク”を合い言葉に、公道における頂点を目標としていた。サーキット走行など、純粋な走りの速さだけを目標とするGSX-Rシリーズとは、コンセプトの時点で一線を画していたのである。

 完全新設計のエンジンは、サイドカムチェーン・レイアウトの水冷並列4気筒、DOHC4バルブで振動を低減する一軸バランサーを備える。また、鍛造ピストンやアルミ製バルブスプリングリテーナーを採用するなど、レーシングマシンで培われたテクノロジーも惜しげなく投入され、フューエルインジェクションが組み合わせられた。排気量は、目標馬力175psから1300ccとされたが、小型・軽量化に尽力した結果、GSX-R1100との比較で、プラス2kgに収めることに成功した。

 シャーシは、GSX-R750譲りのアルミツインスパーフレームで、高い剛性を確保。また、エンジン搭載位置をできるだけ前方にすることでフロント荷重を高め、24.2度のキャスター角、1,485mmのホイールベースと合わせて、軽快で接地感が高いハンドリングをもたらした。足回部品にも、最高級品が奢られている。前後サスはフルアジャスタブル、アルミピストン採用の6ポットキャリパーブレーキと軽量ホイールによりバネ下重量を軽減。従来の常識を越えた高性能を支えるタイヤは、専用品が同時に開発・採用された。

 デザインも究極を目指した。「全ての人に好かれようとは思わない」。そうデザイナーが語るほど、個性溢れるカウリングデザインは、空力特性を徹底的に追及した結果から生み出されたものである。ヘッドライトは、ラムエアダクトの吸入面積を確保するため縦2灯に配置され、ビルドインされたフロントウインカーとともに、シャープなロングノーズを構成する。深く回り込んだフロントフェンダーや、アンダーカウル後端の整流板も、さらなる空気抵抗削減に寄与している。

 各種装備品にもぬかりはない。ヘッドライトは、ハイビームにプロジェクターランプを採用。多機能液晶パネルを装備した先進のコクピットは、メーター類全てを、レスポンスに優れるステッピングモーター駆動とした。ステップには防震ラバーを備え、シングルシートカバーと付け替え可能なタンデムシートは、内部に約4リットルの小物入れを設けるなど、日常の使い勝手までもが、十分に考慮されていた。

 全てに妥協のない開発により、究極のスポーツバイク=アルティメットスポーツが造り上げられたのである。

    
    自然界最速の鳥“隼”        1999年 GSX1300R             エンジンカット図            アルミツインスパーフレーム

スタンダードテクノロジーの昇華がもたらす多くのライダーが楽しめる高性能

 ハヤブサは、スズキが培ってきた技術の集大成である。
事実、スズキスポーツマシン史上、最高のスペックを有し、
最高性能を実現して誕生した。しかし、意外なほどにスズキスタンダードテクノロジーの集合体でもある。

 全てに最高の品質を与えられてはいるが、エンジンはGSX-R750系を発展させた高出力&コンパクトな水冷。フレームはRGV-ΓやGSX-Rから磨き抜かれたアルミツインスパーを採用している。空力に優れるカウリングもRF600Rなどで徹底的に研究されてきた。

 一見すると、完成されている既存の技術のみで造られた感すらあるハヤブサ。しかし、このマシンには真の“革新”が凝縮されている。

 今や高性能バイクの実力は、公道で一般ライダーが制御できる限界まできていると言っても過言ではない。しかし、性能的向上を追求することは止まらない。そんな中、多くのライダーが体感できる高性能を実現する必要がある。いたずらに最高スペックを誇示しないユーザーフレンドリーなバイクが求められる時が来た。

 どんな高性能もライダーが体感できてはじめて成功と言えよう。新しいディバイスやコンセプトは魅力的だが、ライダーに習熟を強要してはならないとスズキは考える。全てにユーザーの満足を優先させるからだ。ハヤブサのコンセプトは“アルティメットスポーツ”究極のスポーツマシンだからこそ究極の満足をもたらしたい。一般レベルのライダーが高性能を体感可能とする柔軟さをトップエンドモデルに与える。そのために開発陣は、すべての技術を練りに練り、最適な組み合わせを施し、ハヤブサに内包することに尽力したのである。ハヤブサはスズキテクノロジーが完全昇華した、スズキが目指すスポーツバイクの理想型として誕生した。

                  
           
フロントビュー                   メーター                 シート下収納スペース
                           
                       
風洞実験                          整流効果イメージ

独創と革新を生むチャレンジャー精神スズキの挑戦は21世紀も続く

 
独創と革新を追い求めるスズキのバイタリティーは、東西の中央に位置し、昔から関東・関西文化の交流点で培われた遠州地方独特の「やらまいか」精神に裏打ちされている。「人と同じことはやらない。やるからには世界一になる」その情熱は、大輪の花を咲かせた。1920年鈴木式織機株式会社設立後、戦後の混乱期を乗り越え、'52年にはバイク産業に転じ、2000年に80周年の歴史を刻んだ。それは紛れもなく激動の20世紀の中、バイク産業において確かな足跡を残した成功者の歴史なのである。

 スズキは多くの先進技術を実用化し、バイクの高性能化を果たしてきた。ダブルスプロケットホイール装置、ロータリーエンジン、アルミフレーム、油冷エンジン、フューエルインジェクション… その全てが未知への挑戦であり、その都度高い壁を打ち破ってきた。

 そして21世紀を迎えた今日。新たなるスズキの挑戦が始まった。環境問題への対応を果たしつつ、さらなる満足感をもたらすバイクを造る。また、多様化する市場の嗜好をリードする新しいマシンの創造。全ては、ユーザーの「夢」をかなえるために。スズキの情熱はさらに熱く、燃え上がっていく。                   

 (完)

                                
                   2000年 GSX1300R(限定カラー)                   2001年 GSX1300R


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