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            スズキ ロータリー二輪車 RE-5 (2)

4.6 吸気系
                      図ー15

 吸気ポートは,高出力に有利なトロコイド周壁面に開口するペリフェラルポート方式を基本設計としている.ペリフェラルポート方式は高出力に有利な代わりに,低負荷時には排気孔とのオーバラップが新気へのエキゾーストダイリユーションを誘引し,燃焼劣化によるシェーキング現象を起こし,運転のフレキシビリティーを損なう.RE−5形では,その対策として吸入孔を低負荷用小径ポートと高負荷用大径ポートに分けた多孔方式を採用し,低負荷時には,高負荷用吸入孔(大径ポート)に設けたポートバルブが閉じられエキゾーストダイリユーションを防ぎ,オーバラップの少ないポーティングを有する小径ポートのみから新気を吸入する.この新方式を採用した結果,低速から高速まで満足のいくドライバビリティーを得ることを可能にした.なお高負荷用吸入孔ポは,キャブレタープライマリポート開き角度で35°からポートバルブが開き始め,新気を吸入するシステムとなっている.図−15 に多孔式吸入孔の配置とポートバルブ装着の状態を示し,主要諸元表中に吸排気ポートタイミングとポート開口面積を示す.

            
                    図ー16                       図ー17

 ロータハウジングから気化器にむすぶ吸気マニホルドは,ロータハウジング側の二つの低負荷用吸入孔を途中で1本にまとめ,気化器と接合している.図−16図−17 に吸気マニホルドのカット図を示す.

     図ー18

 気化器は,三国工業製の横置きソレックスタイプ,2ステージ2バレル,18−32HHD形を使用している.図−18 に気化器系統図を示す.この気化器の特徴は,低速回転時の安定性と良好な燃料消費量を得るために,1次側のガス弁径18mm,ベンチユリ径15mmと小さくとってある.2次側のガス弁径は 32mm,ベンチユリ径27mm と大きくとり,高速出力の向上をねらっている.1次側と2次側のスロットルバルブ連動には,2次側スロットルバルブの前後に設けた負圧取り出し孔からの合成負圧でディスプレッションチャソバ内ダイアフラムを作動させ,2次側スロットルバルブを自動連動するいわゆるブーストコントロール方式を採用した.この結果,1次側,2次側のガス弁径の差により発生する急加速時のエンジンストール現象を解消し,極めて良好なつながり特性を得ることができた.
 加速ポンプは1次側のスロットルバルブと連動するダイアフラム式で,噴射時期は1次側スロットルバルブ開度で35°,噴射量は0.5cc以上/ストロークである.加速ポンプ噴射時期,噴射量及びポートバルブ開き始め角度は,2次側スロットルバルブ開き始め角度と関連して1次側2次側のつながりに影響する.
 始動用チョークはマニュアル式であるが,チョークを閉じたままの暖気運転とか,ミスチョーク走行によるプラグくすぶりやエンジンストップなどのトラブルを防ぐため,1次側の負圧を利用したブーストコントロール方式の自動薄め装置をチョークバルブに連動させた.すなわち,始動直後,エンジン回転数が上がると1次側の吸入負圧でダイアフラムが作動し,チョークバルブをやや開き,回転に応じた空燃比の混合気を供給する。また,チョークONで走行した場合,その負圧によってチョークバルブ開度が開き,混合気を薄めにする.同装置により,運転者のミスチョークによるエンジントラブルを解消することができた.また始動時に適量の吸入空気量を得るため,ファーストアイドル機構を設けた.すなわち、チョークレバーと1次側スロットルバルブを連動させ,チョークレバーを作動させると,1次側スロットルバルブが25°30′開く.この両者の機構をマッチングさせたことで,優れた始動性能を得ることができた.その他各運転状態でバランスのとれた混合気を供給する目的で,メインエアカット式エンリッチ装置を設けた.すなわち,高速,高負荷回転域で出力空燃比を得るため,ブリードエアの一部をカットし,適正な空燃比を得るシステムである(図−19).

        
                図ー19                            図ー20

 アペックスシール摺動面へ供給するオイルは,気化器ニードルバルブ上の燃料入口近傍に設けた噴出孔にチェックバルブを経て送られる.ここで,燃料との衝突及びフィルタの通過により,ガソリンとよく混合され,フロートチャンバに入る構造となっている.オイル燃料混合比は,運転状態により1/100〜1/200 となっている.
 エアクリーナ容積は2.6 Lで,ブローバイガス還元孔を有している.エレメントは湿式ウレタンホームで有効ろ過面積は240cm2である.エレメントは簡単に脱着可能な構造となっている。エアクリーナと気化器を接続するサクションパイプは,エアクリーナ設置の関係で長さ435mm,内径47mm の耐侯性,耐熱性ゴムである.図−20 にエアクリーナとサクションパイプを示す.

4.7 排気系

 ロータリエンジンの排気ガス温度は,レシプロエンジンより高く,一方,モーターサイクルの開放性から排気系は特に安全性を考慮した設計が必要となる.
 RE-5 の排気系は,
1)安全性,2)耐久性,3)少ない騒音,4)ツーリングモデルにフィットしたスタイリング,5)出力性能を増幅,という五つの設計思想を基に開発した新しいシステムである.すなわち第一の特徴は,マニホルド(図−21)はAC8B−T6処理の耐熱アルミ合金で放熱性を上げている.更に,熱エネルギを分散させ,マフラにかかる熱負荷を下げるため,デュアルマフラを採用した。これは加速騒音の減少と排圧を下げ,出力の向上にも役立っている.

                     図ー21

 第2の特徴は,マフラのクーリングシステムである。図−22 に示すように,マフラの内筒と外筒に空間を設け,マフラ後部に配したエジェクタを利用して,強制的に冷却空気を流し,マフラ本体及び排気ガス温度を下げた.更にマフラ外筒にプロテクタを設け,より安全を確保した.なお,アイドリング時でも冷却空気が流れ,温度を下げるように,エジェクタを設計した.

          図ー22

 第3の特徴は,十分な耐久信頼性を確保するため,排気ガスの接する所はすべてSUS304を用いた.また,熱膨張による破損を防止するため,各部材はすべてエキスパンションフリーの構造とした.

4.8 点火系

 点火プラグの配置は,高出力を得る設計思想から,ロータハウジングのトロコイド短軸線からロータ回転方向遅れ側(トレーリングサイド)23mm に位置した,いわゆる1点火プラグ方式である.トロコイド表面と電極室をつなぐトランスファーホール直径は5mmである。
 点火プラグはRE−5専用に開発された,ねじ径18mm,リーチ 22.6mm の通称フクロ型Xタイプで,NGK製A9EFVを標準とする.熱価はレシプロ用プラグの9相当で,テーパシート形である.電極には,熱伝導の良好な特殊合金を採用し,高速高負荷連続運転に十分耐える仕様とした.また,多くの低温始動テストの結果,最良の金具内径,碍子の形状を選択し,かぶりの発生しない形状を得た。図−23 に点火系統図,図−24 に点火系装置の一式を示す.

 
               図ー23                                   図ー24

 点火装置は,トレーリングサイド1プラグ方式に最適で,なおブレーカ接点のロングライフを保証し,サービスフリーに徹するために,日本電装製の高性能接点式CD イグナイタを採用した.放電電圧はバッテリ点火方式より高く,なお容量及び誘導放電時間をエンジンによくマッチングさせた結果,プラグ特性と相まって,プラグ汚損の解消及び低負荷時の安定燃焼を得ることができた.ブレーカはエキセントリックシャフト回転数の1/2に減速されたカムシャフトに,2山カムと1山カムが同軸上に構成されている.1山カムはスロットルを閉じた惰性走行とか降坂走行時,いわゆるコースティング時に発生するシェーキング現象を解消するため考えられた新しい間引点火方式の1ユニットで,減速時の負圧を検出するバキュームスイッチと,1700rpm 以下で回路をカットする回転スイッチと組み合わされ,一つのシステムを構成している.
 点火早め装置は遠心式で,アイドリング1200rpmにおけるセットタイミングは,レギュラ,無鉛ガソリン使用とも上死点前5°で,最大進角は上死点前31°である.

4.9 冷却系

     
               図ー25                                 図ー26

 ウォータポンプは直径60.5mm の6枚羽根うず巻き式である.
 サーモスタットはワックスベレット形で開弁温度71°C,全開温度85°C,全開リフト8mm以上である.サーモスタット取付け位置は 図−25 のように,バイパスを通って出てきたホットな水と,ラジエータを通って冷やされてきた水とが混合する位置にサーモスタットを置く,いわゆる混合弁方式である.特にこの方式を採用した理由は,冷却水の温度変動幅を少なくし,ハウジングに与えるサイクリックな熱応力を極力減少させる配慮からである(図−26).
 ラジエータは,日本電装製の加圧密封式,バーチカルフローのコルゲーテッドフィンアンドチューブタイプ,アルミ製で,調圧弁のセット圧力は,0.9kg/cm2である.
 高温下での長時間登坂や,市街地の渋滞走行など,苛酷な条件でもオーバヒートを起こすことのないよう,高性能の4枚羽根,風量290m3/hのブロワモータを標準装備している(図−27).

                   図ー27

 エンジンハウジソグの冷却水循環回路ほ,ハウジング全体をバランスよく冷却できる軸流方式とした.冷却水は,まず,スパークプラグ近辺の高温部を通り,次に燃焼方スが排出される排気孔付近を冷却し、最後にハウジングの内では最も温度の低い吸入孔付近を通って,ハウジング内の循環をする反転往復する形式である.冷却水流量,ハウジング内のリブ配置の細かい検討の結果,あらゆる運転条件下でもハウジングスキン最高温度を185°Cに抑えることに成功している.

4.10 潤滑系統

 ロータリエンジンにおける潤滑は,ガスシールエレメントの潤滑と,ロータ内部冷却を兼ねた各軸受部潤滑とに大別される.これらは,油槽を同一にする方式もあるが,作動室に送り込まれるオイルはエンジンの耐久性と信頼性を高める上で最も好ましい新鮮なオイルを常に供給できるように,特に考慮が払われている.
 すなわち,図−28 の潤滑系統図に示すように,各シール類の潤滑は,2サイクル二輪車に一般に見られるように,車体に装着された専用の別タンクからオイルが導かれ,三国工業製のプランジャタイプのメータリングオイルポンプ(図−29)により計量されて,キャブレタ巾のフロートチャンバ上部でガソリンが流入する通路に圧送され,がソリンと混合される仕組みになっている.なお,このポンプの吐出量コントロールは,アクセルと連動になっており,アクセル開度によって行われる.

      
                図ー28                         図ー29

 軸受部潤滑及びロータ冷却用のオイル供給は,ユンジン下部に横断して設けられたオイルパン内のオイルを,ストレーナを通してトロコイドポンプで吸い上げ,オイルフィルタ及び空冷式Al製オイルクーラを通して,ろ過及び冷却されてからエンジンヘ送られ,エキセントリックシャフト内の通路へ圧送される.なお,図−30 に製品断面を示すように,Al鋳造製のボデーにスプリソグどプランジァとから成る,油圧調整弁及びオイルクーラの安全弁を組み込んだレギュレータユニットが装着され,オイル回路の一部を構成している.

                           図ー30

 オイルフィルタについては,作業に完全を期すことができるように,日本電装製の一体カートリッジタイプを採用し,装着場所も作業性を考慮した位置になっている.
 メータリングオイル及びエンジンオイルは,同一種類のオイルを使用することにし,三菱石油と長期にわたって共同開発した結果,耐熱及び耐清浄性に優れたロータリ専用オイルをスズキロータリオイルとして指定している.このオイルは粘度がSAE10W/40で,灰分合有量の制御により,デポジットの堆積を極力少なくしたことを特徴としている。

4.11 ブローバイガス還元装置

 ブローバイガスの還元装置を図−31 に示す.オイルのシールエレメントに作用した後のブローバイガスは,バッフルウォールを設けた部屋に集められ,混入しているオイル分は取り除かれて,ガスのみがホースでエアクリーナに導かれ,大気へ放出することなく還元されている.

       図ー31



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