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MFJ レポート 1965年No.18

            「見てきたモトクロス世界GP」 座談会

         久保和夫氏         鈴木誠一氏         高橋一成氏

 毎日曜日、日本のどこかでモトクロスが行なわれているといわれるほど、モトクロスはポピュラーなモータースポーツとして順調な発展をとげている。MFJでも全国的な規模のもとに、これまで2回の「モトクロス日本グランプリ」を開催し、多大な成果をおさめた。そして来年あたりからは、日本のモトクロスの水準をひきあげるためにも、またやがては日本のチームをおくるためにもその年の日本チャンピオンをヨーロッパにおくろうという話もささやかれている。そこで、ひと足さきに本場ヨーロッパでのモトクロス世界GPに参加してきた久保和夫、鈴木誠一、高橋一成の三氏にお集りをいただき、肌で味わった本場のモトクロスを大いに語ってもらった。

                         

■すごい、すごい ■新人などとはウソ ■マメが三段階にもできている手

司会 久保さん、鈴木さん、そして高橋さんそろってモトクロス世界GPに参加してきたわけですが、どうですか、本場のモトクロスは・・?。
鈴木 すごいですね、レースの規模といい、レースの内容といい、まったくみごとなもので、圧倒されるくらいです。
久保 クラブ主催の小規模なものでは日本とチョボチョボだけれども、インターナショナルともなると、これはほんとうに”すごい”の一語につきる。
司会 そのすごさを大いに語ってもらいたいんですが、具体的にいって、日本のモトクロスとどんなちがいがあるか、レース内容、マシンの問題、さらに運営方法や観客のマナーなどについて、実際に肌で感じたことをお聞かせください。
鈴木 すべての面で日本は五年おくれているといっていいね。
久保 たしかにそんな感じだ。早い話、むこうでは観客がゼニを出してモトクロスを見にきている。つまりゼニがとれるモトクロスが行なわれている。それだけ高度なものなんだ。
鈴木 というのも、インターナショナルでトップに顔をだすような有名選手ともなれば、ファクトリーとしての契約金のほかに、賞金もとれるし、またそれで喰っていけるし、事実喰っていかねばならないんで、それだけに真剣なわけなんだ。
久保 まずライダーといえばみなゴツイやつばかり。日本では久保はでかすぎるといわれているようだけど、むこうではガキにしかみえないものね。
司会 そうすると、ウデの力もそうとうちがうというわけだ。
久保 というよりもスタミナね、これがぜんぜんちがうわけなんだ。日本の場合90を10何馬力とかいっているが、125はもとより250を存分に乗りこなすまでにいっていない。
鈴木 ところが彼らは50をふりまわしているように250を扱っている。
司会 モトクロス世界GPを目指すにはまず身体をきたえよ、ということ・・・。
高橋 それと同時にキヤリヤをつめということですね。
鈴木 むこうではクラブ単独とか、クラブ対抗、そしてナショナルレースなどインタナショナルのレースに出るまでにはだいたい4段階ぐらいある。だから新人といっても、そのキャリアの積み重ね日本と全然違うわけだ。
久保 新人とはいうが、ロべールなどべルギーで7年もやっている。ベルギーのモトクロスは同じヨーロッパでもかなりレベルの高いところで、コースもけわしい。日本でいえばアマとジュニアの差があるくらいなんです。
鈴木 そういうところから出てきているのに”スイ星のごとく現われた新人なんていうんだから・・・。
久保 われわれもそういうものか、と思っちゃう。ところがもっとレベルの高いところで10年もやっているんだ。
高橋 まったく雑誌屋さんなど、ジャーナリストのいうことはあてにならない。
久保 彼等がどれだけキャリアをつんで出てきているか、それは彼等の手をみれば分る。マメが三段階ぐらいに出来ている。これには驚かされた。マメの下にマメができ、またそれが消えないうちにその下にマメができているんだ。
高橋 顔はやさしいけれど手はグローブのようだ。
司会 手がきれいなうちは駄目だということですね。
鈴木 手をみせてみろっていわれたけれど、ちょっと乗っていなかったものでこちらはきれいなもの、まったくはずかしい思いをした。

■最後まで全力走行 ■頭ごしに飛んで追い越す ■スキあらば抜く

司会 そんな連中がバリバリやるんだから、それはすごいものでしょうね。
久保 とにかくいったんレースに入れば連中はコンマ一秒でも、休もうとしない。
高橋 見ていても息ぬきするところがない。まさに手に汗をにぎる場面の連続でこれならゼニもとれると思った。
久保 日本ならば、あたまをとるとらないは別にしても、難所をきりぬけたあとなど、スロットルを戻して息をぬくものだけど、それがみられない。
司会 多摩テックのニューイヤー、そして相馬ケ原、東山公園と、MFJは過去三回にわたって大規模なモトクロスを開催してきましたが、息をもつかせぬという点では、東山でのモトクロス日本GPがすごかった。この東山ではじめてジユニアとアマチュアの部門別ができたのだけれども、ジュニアの250ccはこれまで行なわれた日本のモトクロスでは最高のものでした。
久保 はやい話、目をつむって凸凹道をつっ走っているという感じで、コースなどみてはいない。
鈴木 日本ではコースをよく研究しろ、なんていって、歩いてコースを見まわせたりすれけれど、連中はそんなことしないね。ぶっつけ本番だ。それでころんだりしないのだからたいしたもんだ。
高橋 見ていてもほんとうに転ばない。
鈴木 コースをまめに歩いて、抜き場所はここだ、なんて考えてはいけない。
久保 たとえば2段にわたって急な下りがあるとする。それを山なりに下がっていくなんてことはしない。最初から飛んでしまう。そしてうまいやつになると、2段目の傾斜にあわせて、前後輪が接地しているんだ。
司会 ラップのすべてを全力だして走っているというわけですね。
久保 一度すごいのをみた。頭の上から追い抜いていったというのをね。飛ばすことはみんな飛ばすんだけど、テールのほうを走っている連中の中には、坂は坂なりにおりていくのがやっぱりいるんだけど、先にいった二段飛びで、それを頭から追い越していったんだ。これにはたまげたね。
高橋 ビッカカーズだろ、あいつはすごかった。とにかく先行しているライダーの姿が下からは見えないという二段坂を、頭ごしに飛んじやうんだものね。
鈴木 フィンランドでだろ、あれはビッカーズの得意中の得意の場所だからできるんだよ。
高橋 だけどさ、ロべ−ルがビッカーズの真似して一回だけ二段飛びをみせたけど、二度目からやめてしまうようなところでやるんだからたいしたものだよ。
久保 あれは彼にしかできない芸当だろうね。ローベルさえ飛べないところを飛んでしまうんだかち。
鈴木 それと、洗たく板のようなところを、前輪をあげてボンボン飛んでいくというのも連中はうまい。
久保 抜き場所なんか考えずにまさかこんなところで、というちょっと考えられないところでもスキあらばどんどん抜いていく。
高橋 だから反射神経の鋭いヤツでないと、なかなかトップクラスには顔をならべられないね。
久保 とにかく相手も転ばないんだから安心してついていける。だからわずかのスキがあれば堂々と勝負にでることもできるんだ。
高橋 それが、日本だとなかなかうはいかない.相手がいつ転ぶかわからないから、安全な抜き場所をきめていて、そこで勝負にでなければならない。そこに技量の差があるといえるね。

■雄大なスケール ■不整地でのスピードレース ■シャツ姿で走行

司会 コースの状態はどう違いますか。
鈴木 雄大だね。そう。日本でいえば相馬ヶ原がよく似ている。久保 東山などのようなハコニワのようなものはない。もっともイギリス、スエーデン、フィンランドしか見てきていないので断定はできないけど・・・。
高橋 インターナショナル以外の小さなものは別として、世界GPのコースは雄大な場所に設定している。そしてコースの巾もグンと広いね。
司会 距離は一周どのくらいですか。
鈴木 FIMの規定にしたがっているんでしょ。だから似たり寄ったりで、イギリス2.4km、スエーデン2km、フィンランドがちょっと短かくて1.5kmということだった。
司会 コースの性格としてはそうとうな困難がともなうといったものですか。
久保 フランス、ベルギーのコースがむずかしいと聞いているけど、われわれが参加してきたイギリス、スエーデン、フィンランドはそうびっくりさせられるほどのものではなかった。
司会 海外の専門紙などをみると、全身ドロだらけ、、そして派手なジャンプ写真などがよくのっているけど、それほど困難なものではないというわけですね。
鈴木 われわれが参加したかぎりでは水たまりなどはなかった。雨が降ればとうぜん水たまりができる谷のようなところでも、すぐにほかの土をもってきて埋めてしまうし、ガソリンをまいて火をつけて乾かしちやう。
司会 聞くと見るとではぜんぜんちがうということだ。
鈴木 だいたい、草原や荒地など不整地を舞台としていかに早く走れるかというスピードの限界をねらつている。そんな感じだね。
高橋 いわゆるクロス・カントリー・レースということですよ。
司会 それでレースの運営方法などはどうですか。
高橋 意外とラフですね。たとえばスタートの場合など、日本では全車がそろうのを待っているけど、むこうではそんなていねいなことはしない。だからモタモタしているとおいてけぼりを喰わされてしまう。でもラフなわりにスムーズさがあるという印象をうけた。
高橋 コースの設定などは、だいたいいつ頃からはじめられていますか。
高橋 レースの行なわれる10日ぐらい前からじゃないですか。
高橋 サクができて恒久的なところもあった。
高橋 そしてピットがよかったね。ピットには関係者以外立入禁止、これが完全に守られている。
高橋 いわゆる顔パスなんかできない。女の子がウロチョロしているなんてこともみられない。ハルマンの奥さんが食事を運んでピットに入ってきたぐらい、ほんとうに徹底していた。
鈴木 やはり歴史のちがいだね。
高橋 それと観客のマナーもしっかりしていた。ちやんと入口で入場券を買い、プログラムを買って、レースのなりゆきを見守っている。
久保 コースを横切ったりするものがいないから、観客整理の係員も出ていない。
司会 まったくうらやましいような話ですね。ところで入場券はどのくらいでした。
久保 日本円にして2〜300円ぐらい。プログラムは100円といったところです。
司会 それで人気のほうは・・。
久保 これはたいしたものですよ。とくにモトクロスの場合は車より人間のほうが主となるものだから、イギリスあたりで、ビッカーズがトップに出ればワッーとくる。あれなら走りがいがあると思った。
高橋 だてにユニオン・ジャックをつけているんじゃない、そんな感じだよね。
司会 そういえばライダーの服装などはどうですか。
鈴木 皮のつなぎなんきていないね。みなシャツですよ。こんど世界選手権をとったソ連のアルべコフなど、シャツがまくれあがって、背中だして走っていたくらいです。
久保 第一に転ばないもの。またどこに木の根っ子がでているか、岩の頭がつき出ているかなんか、コースをみながら走る必要もないほど、よくできているコースでもあるしね。

■低速でも高速でも使える車 ■問題はマシンよりもライダーの養成

司会 ところで肝心のマシンですが、日本のものとくらべてどうでしょう。
鈴木 これはぜんぜん別のもの、日本の車はどこかねらうポイントがずれているといっていいね。
司会 日本の車は回転をあげてパワーアップを図るということで、エンジンのもち味、ひらたくいえばトルクですが、それよりもまず高回転、高出力をおっかけるということできていますからね。
久保 でも最近はハイ・トルクの車が多くなっているようだ。とはいってもトルク・カーブはすごいフラットで、そしてハイ・トルクが使えるというものなんだ。
司会 昨年モリーニがきたとき、単気筒の、しかもエンジンのあちこちにオイルがとんでいるというきたないもので、これで走るものなんかいと思っていたんですが、いざコースに出てみると、回転もあがれば、スピードも速い。素人なりに考えてみたんですが、やはりそこに技術の何かがあるというわけなんですね。
鈴木 モリーニの単というのは、日本が逆にモリーニをぬいているからなんで、ロードレースでは世界をリードしていてもモトクロスではこれから一年生として追っかけなければならないということなんです。見た感じで、人も車も5年は遅れていますからね。
久保 パワーをあげるには回転を高めるということは常識的なことなんだけれども、低速でも高速でもいいというやつなんだ。
鈴木 つまり二重性格といったようなエンジンができている。
久保 高速といっても、そんなべらぼうに高いというのではなく、感じとしては7000といったところだけどね。
鈴木 しかしマシンに関しての遅れは一年もすれば追いつける。ファクトリーのマシンは入手できなくとも、それに近い性質の市販のものがあるからね。それを研究用に使えば、日本の技術としては本腰を入れてかかれば一年で追いつける。
久保 問題はライダーなんだ。
高橋 ヤワCZも、グリーグスも、ハスクバーナもブルタコもこわくない。ただしライダーだけは一朝一夕では出来あがらない。なにせむこうはいつでも他流試合ができるのに、日本は島国、しかも50ccとか90ccといった車のでるモトクロスだからね。
司会 やはりモトクロスは250と500の二本建てでなければならないというわけですか。
高橋 そしてどんどんレースに参加すること。日本ではモトクロスに出たくともそれで生活できないから、むずかしいね。
久保 やはりむこうへ出かけていって本場のモトクロスをじっくり味わってくるほかないね。
鈴木 いや、それよりか有名選手を日本に呼んだほうが手っとり早いし、効果的だよ。MFJあたりでどうですか、現役のバリバリという一流選手を招きませんか。いろいろと有益ですよ。
久保 とにかく井の中の蛙ではダメだ。日本ではトップクラスにあっても、むこうへいけば一年生、初めからやり直すほかはない。とにかくモトクロスというのは車の低能よりもライダーのウデが大きくものをいうんだから、モトクロス世界GPを制覇しようというのなら、まずライダーの養成に心しなければ成功率は少ないね。
司会 いろいろと有益なお話をありがとうございました。


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